!attention!
露骨な表現というわけでは全然ないのですが
所謂、×××後の話。という感じなので
苦手な方は、お戻りくださいませ…。













































彼と、褥を共にするのはもう何度目になっただろうか?




温む腕






自宅の、セミダブルのベッドに横たわっている。
私の右側には子供の体温をした情人が、規則正しい寝息をたてている。

今晩は、年甲斐もなく彼を求めてしまった。

申し訳なさからか、眠気が全くささない。
私は、今晩何度目になるか判らない寝返りを打った。

言い訳が許されるならば、最後に彼と肌を合わせたのは二ヶ月も前の事だったのだ。
彼と付き合うようになってから、所謂“火遊び”をすることもなくなった。
しかしここの処、東部も物騒で立て籠り事件や、爆破テロ等が起こっていた。
被害を最小限に抑える為に、私が“焔遊び”をしたのは言うまでもない。

(……こんな事を隣にいる彼に言ったら、『親父くさい』と、罵られそうだ)

そんな事もあって彼のいない二ヶ月間、現場指揮だ、事後処理だなんだと忙しかったのだ。
健康な成人男子として、溜まっている状態だった。
そこに丁度、恋人が帰ってきたのだから、求めてしまって当然だろう…?


『…でも……』


こんなのは唯の言い訳だ。
自分を正当化しているだけだ。

『…悪かった』

眠れる恋人に謝罪をする。
慈しむように、陶磁器を扱うように繊細に、彼の頬を撫ぜた。

まなじりには泪の後が残っている。


一時の、性的な享楽に身を任せる事を恐れるように、彼は泪を零した。
当たり前だ。彼はまだ15の子供なのだ。


最中、譫言のように掠れる声で私の名を呼んでいた。

指を絡めた。


彼の生身の左手と、私の右手を………


彼は、私が鋼の腕に触れるのを拒む。
最中など特にだ。

鋼の指と私の指を絡ませようとすると、逃げる。
他意はないのだろうが、払われた事もある。
私の首に腕を回す時も、左だけだ。
眠る時も、私に自分の左側(生身の腕側)で寝ろ。と促す。

何故そこまで頑ななのか、と以前尋ねた事があった。

彼は自嘲気味に笑うと、

『機械油の臭いがするし、これは血の巡ってない、冷たい禁忌の腕だから。』

『あんたに触れたくないし触れてほしくない。』

と答えた。

そんな事を言ったら、私の腕の方が余程罪深い。
禁忌と彼は言ったが、母親を錬成した対価で持っていかれたのは左足だ。
彼の腕は、弟の魂を鎧に定着させる為に持っていかれた。
腕は言わば、弟を助けるために失ったものではないか。

それに引き替え、私の腕は命令だったと言えど何百何千の命を焼いた。
一民族を根絶やしにした、奪う事しかできない腕だ。


私こそ、そんな腕で彼を抱いて良いのか、惑う。

『…………』




□□

私はベッドから立ち上がった。
思えばストーブを焚く間もなく、抱き合った。という事に今更ながらに気がついた。
抱き合っている時は汗が滲む位に熱かったし
今も二人で同じ布団の中にいた為、気が付かなかった。

反対側に回り、その彼の体格よりも随分と逞しい、鋼の腕に触れた。
布団の外に投げ出されたそれは、外気と同じ冷たさをしていた。
金属と接合している皮膚の部分も、布団から出て冷たくなっている。

『………』

私は布団をめくり彼の右側に横たわった。
毛布を彼の肩まで覆うように掛けなおす。肌に触れてくる腕は冷たい。

『…た、いさ…?』

すると、眠っていた筈の彼が薄目を開ける。
随分と敏感になっているようだ。

『やだ…』

エドワードは身じろぎをする。

『良いんだ…大丈夫だよ』

そんな彼を宥めるように腕に触れた。
神経は繋いでいるが痛点等の触覚はないそこが、少し顫動する。

『でも…冷たいから』

『…冷えると付け根が痛むんだろう?』

いつだったか、寒い日や雨の日は接合部が痛む。と彼が言っていたのだ。

『……』

無意識なのか、彼の生身の方の指先がケロイドのようになった接合部を撫ぜる。


どうやら図星らしい。


『ほら、痛いんだろ』

私は優しく、彼を、鋼の腕ごと抱きしめた。

『こうしていれば、この腕だってちゃんと体温を宿すよ』

金属は熱や電気をよく導く物質だ。
私がこうして触れていれば、私の体温と同じあたたかさになるだろう。

『……血の巡っていなくとも、ちゃんと温かい腕だよ』


『大佐……』

涙腺が緩んでいるのか、彼の目から雨雫が零れそうになる。

私は、彼のまなじりを舐めた。
先程の泪が乾いて塩の味がする。
彼は黙って、小さく頷いた。








私が、傍にいる時は君の腕を冷やしたりしないから。

寒い、痛い、思いをさせたりしないから。

私の無骨な、奪う事しかできない腕でも、君の腕をあたためる事くらいならできるよ。


fin
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甘い…甘過ぎる…
甘くってもいいじゃない!(開き直り)
基本は甘いのとか、ほのぼのしているようなのが好みです

もっと、松の木の剪定みたいに
いらないものを落として、無駄のないすっきりとした文章を書きたいです。


20060321

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